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300年前から退化している子供たち?
『最近の子供は運動神経が低くなっている。』
『運動をする子としない子の格差がどんどん広がっている。』
前者は江戸時代の文献から、後者はドイツの現在の子供たちについての研究レポートの中の一文なんです。
残念ながら今の日本の子供たちにも当てはまることでもありますが。
最近の小学生の運動テストの結果と、25年前の子供のテスト結果を比較すると、近年の小学3,4年生の体力は25年前の子供の4-5歳児の体力レベルだそうです。また、運動能力の低下については、小学校入学よりも前に始まっており、幼児期からすでに差が出始めているそうです。
単純に運動能力の低下という部分については、物質的な豊かさがあがるにつれて低くなっているので、仕方のない部分もあります。ただ、その結果、本来であれば高齢者に見られるロコモティブシンドロームという症状が小学生年代からも出ているそうです。
先日、私はドイツの幼児体育のプログラム(幼児から小学校低学年向け)のバルシューレ(直訳するとボールスクール)の指導資格を受けてきました。その中でも、前述のドイツの子供の運動をする子としない子の格差が広がっているということを聞きました。特にドイツでは日本と違い体育の授業が一般的ではないので、本人または保護者の希望によりスポーツクラブに入ることになるので、日本以上に差が顕著なようです。
このバルシューレというのは、様々なボールを使った競技の基礎となる動き(投げる・打つ・蹴るetc)を遊びに近い中で行い、動作を習得していきます。遊びに近い中で、子供たちが様々な発想を出して、楽しみながら様々な戦術を生み出していきます。戦術を考える時間などもあり、想像力やコミュニケーション能力なども自然と育まれます。
また特徴的なのは動作について細かく指示するのではなく、子供たちが自身で動作獲得していくことや、エスカレートしてしっちゃかめっちゃかになることを、戦術を考える過程として肯定的に捉え、あまり注意しない事でもあります。(著しく他人に迷惑になる場合は注意されたり、ペナルティーとして5分間の退場などもありますが)
このプログラムは9歳までに卒業できるように考えられていて、その後は少しずつ専門的な競技へ移行していくことにつながっている。
興味深いのは国際レベルで活躍する選手は、国内レベルにとどまる選手と比較した場合に、12‐14歳程度までは単一の競技ではなく、複数のスポーツをやっていたというデータもあり、幼少期から一つの事に打ち込むことを往々にして求められる日本とは対照的でもあるということです。
様々な運動を経験する事で、動作獲得に加え、身体の柔軟性や思考能力、認知能力、戦術適応能力を伸ばすことが出来るようです。日本では単一スポーツをやりこむことがほとんどですが、このように様々なスポーツを経験することで、自分に合ったスポーツを選ぶことが出来たり、またこっちの道はダメでも、別の道を、という選択肢が増えていきます。
スポーツ、特に球技が盛んな沖縄なので、バルシューレのプログラムはかなりマッチしているように思いました。
高齢者だけでない、急増しているロコモティブシンドロームの子供たち
まっすぐ立っているとすぐに疲れてしまう、片足で立てない、缶が空けられないといった、生活の中で支障を来すほど、運動機能が下がってしまうロコモ(運動器症候群)
骨や筋肉の低下、衰えが原因と考えられていますが、埼玉県内の子供の実に40パーセントがこの症状に該当していたことがわかりました。
運動不足が主な原因と考えられがちですが、他にも栄養不足や栄養過多、そうした単一スポーツのやりすぎにより、特定の関節が固くなってしまったり、使わなくなっていった部位の「退化」が始まってしまうことも原因となります。
驚くことに週10時間以上も運動をしている(一つの)子ですらも、ロコモティブシンドロームの症状がみられたそうです。
確かに、うちのスクール生も普段と少し違う動作や、ボールを投げさせると、とんでもないフォームや、見たことのない動き(ぎこちない)を見せます。こうしたことがきっかけの一つでもあり、今回ドイツのバルシューレへ学びを求めました。また某メーカーの講義も聞き、スクールの中でも新しい取り組みを始めました。
36の基本的な運動動作を取り入れる
人間の基本的な(主に生活で使う)動作が36あると言われています。その中で姿勢の変化や安定性を伴う9つの動作
立つ・組む(人と)・乗る・逆立ち・渡る・起きる・ぶら下がる・浮く(水面)・回る
重心の移動を伴う9つの動作
走る・登る・跳ねる・泳ぐ・跳ぶ・くぐる・滑る・這う
人や物を操作する18の動作
持つ・支える・運ぶ・押す・掘る・当てる・蹴る・押さえる・捕る・振る・こぐ・渡す・投げる・倒す・引く・打つ・掴む・積む
以上の動作があります。
サッカースクールではありますが、サッカーをする前にケガの予防、また体をしっかりと操れるようになることで、運動神経そのものをあげ、子供たちの伸び代をより広げようと考えています。
毎回のウォーミングアップで公園のうんていやのぼり棒を登り、坂をハイハイでよじのぼり、アスレチックを上がり滑り台で降りてくる、というのをやっています。1周2分程度なので、始まる前にやっておいで、というと子供たちは喜んで行きます。
ただできない子もいます。その子たちには3回までチャレンジして出来なかったらいいよ、という声をかけています。
本人の意識次第ですが、1-2週間ほどでできるようになる子がほとんどです。面白いことにできない子の多くはどちらかというと、テクニックに長けている子が多い印象です。
前述の単一運動の件と符合します。
彼らに言うのが、出来ていなくてもここまでサッカー出来るんだったら、体の使い方をもっとよくすれば、今以上のプレーができるはずだよ、と。そうすると目の色を変えて取り組んでくれます。(ほとんどの子は(笑))
これに加えてウォーミングアップの15分の中で、ボールを使った中で上記の動作を多く入れるので、だいたいスクールの70分の中で30動作以上が盛り込まれています。
夢中にさせる環境作り
ここで大事なのが、夢中になってやれるか?ということです。夢中になることで、脳の中でドーパミンが出て動作習得をよりスムーズにしてくれます。人に教わるのではなく、楽しむ、またそういった設定を作っていくのが指導者の役割でもあると考えています。
サッカースクールではありますが、コンセプトの一つに「サッカーはもちろん、子供たちの健やかな成長を願い、心身ともに成長できるスクールでありたい」というのがあります。
メンタルや食事も含めて、スクールの中でできる幅広い取り組みをしながら、サッカーのすばらしさ、楽しさも同時に伝えていきたいと考えております。
二田水 晶